不動産取引は、1案件毎に忘れられない物語があります。
スムーズに進む案件もあれば、そうでない案件もあります。
そんな体験を、少し共有したいという回です。
個人情報などは伏せてフィクションを混ぜてお話します。
今回ご紹介するのは、居住中の自宅を査定してほしいとの相談から店舗に来店
されたことから始まり、引き渡しまで苦労したお話です。
この方、何社か訪問されているようで、査定金額が高い会社に依頼すると決めているようです。
土地は広く、かなり昔から受け継がれた土地に、居住用の住宅がある状態で、住み替えも兼ねて
の相談でした。
3~4宅地にはなりそうな広さ。住み替えも絡むと、大きな仕事になりそうだなという印象でしたが、
あせりは禁物。
来店された方が売却する権利があるのか?
時期は?家族構成は?売却する必要があるの?
色々とお話をしないと、お客様に合った提案ができません。
とにかく査定してほしいということでしたが、
査定金額が独り歩きしてしまうのは避けたいところ。
落ち着いてよくよく話を聞いていくと、
・来店された方は所有者の息子
・所有者が売却の意思無し
・所有者、所有者妻、息子が居住中
・所有者の判断能力がご高齢で怪しい
・他の親族は別居の娘
・家の老朽化、両親の高齢化による周辺利便性の不安
ということがわかりました。
所有者以外は、売却したい、所有者は売却したくないという状態でした。
お話を聞く限りでは、たしかに住み替えが良さそうではありました。
査定はもちろんお受けしましたが、現段階では売却金額以前の問題で、
所有者を説得すること、判断能力の確認が先だということを理解していただくことに
徹しました。
現地の調査も兼ねて所有者とお話をさせていただきたい旨を伝えましたが、
「調査は良いが、面談は売却を任せる会社の担当とするので査定金額次第。
本日3社目だが、初めての話が多かったことは良かった。」
ということで、信用はされているかもしれませんが、初回面談で信頼は
得られませんでした。その日は現況の測量図を頂戴し終了。
相談者に対して、少々調子の良さを感じたところもあり、
本音を見極めながら対応しないとなと感じました。
-その1週間後に再来店-
査定の報告をいたしました。詳しい内容は割愛しますが、土地が広く一般の方が
注文住宅を建てる用途で購入するには扱いきれない広さと金額になるため、需要と
供給の関係で不動産業者が建売用地として購入することが現実的だという結論を軸に
お伝えしました。今回は不動産業者での買取提案のため、「査定金額=売買契約価格」
となりわかりやすい競争となりました。
残念ながら他社に金額がわずか及ばず、他社にて売却を担当することとなりました。
条件面では売主様に有利でリスクが少ない内容だったのですが・・・。残念です。
【所有者を説得する編】
-その2か月後-
私に1本の連絡が入りました。
「〇〇〇〇万円の査定金額ならやっぱり是非山田さんにお願いしたいのですが。」
ん?金額指定?やっぱり是非?どういうこと?とか思いながら話を聞いていると、
どうやら他社の担当が、所有者を説得することができなかったそうで。
簡単にあきらめたり、強引な営業手法について文句を言っておられました。
ん-、大丈夫かな?つまり是非私にではなく、振られたから2番手ってこと?
商売なので良いのですが、ちょっと言い方にモヤモヤしました。
何より売りたくないって言っている人に、売ってくださいって話をするのは気が進みません。
でも困っている様子ではあったので、所有者と話をしてみることにしました。
面談の条件として、初回はご挨拶のみであることと、別居の娘さんの同席を依頼しました。
-所有者宅 訪問-
そして面談当日、まずは、私がいる前で何故住み替えをしたいのか
を所有者へあらためて伝えていただき、会話をずっと同席して聞いていました。
私は私が提示した条件通り、ご挨拶するだけにとどめました。
わかったことと、次につなげようと思ったことは以下です。
・所有者は住み替えが良いことなのは理解している
→良いと考えているならお手伝いさせていただこう。
この部分を軸に説得を試みよう
・所有者が前向きに考えるということで問題を先送りにしている
→話し合いを切り上げるのが皆さん早いのが原因。
所有者に会話のバトンがある状態で何を言うか待ってみる。
他に理由があるかも?
・判断能力は、会話はできるが司法書士の判断が必要
→司法書士による事前面談をセッティング
・山側の隣地と関係が良くなさそう
→境界確定するための立ち合いを依頼する時に
所有者も同行でご挨拶が必要
所有者との面談後、一つ一つ解決するため上記を提案。
金額の方はというと、指定金額にてまとめることができました。
ほんともうちょっとのところで届かなかった金額だったので、
少々の条件変更でどうにかなりました。
こっからが大変でした・・・。
その後所有者とは2か月の間に4回面談。
昔話がお好きな方で、1回の面談で1時間から2時間ほど話をしていました。
少しずつ私とも打ち解けていき、本音が聞けたのが4回目の面談でした。
「代々受け継がれてきた土地を自分の代で手放すのは先祖に申し訳が立たない。」
やっと本音が聞けました。本音が聞ければ、そこからやっと家族間で本音のやりとりができます。
その想いを尊重した上で、現実を見てもらうということですね。
その日の最後に、「この土地、売ります」という所有者が意思決定をしたことで
所有者とご家族全員で大盛り上がりをしたことを今でも忘れられません。
まだ問題は残っています。
・所有者の判断能力を司法書士の事前面談で判断していただく。
・隣地との関係が良くないことで、測量に影響があるか。
事前面談については、署名をすることに少々苦戦しましたがクリア。
隣地の境界立ち会いを依頼する際には、所有者妻、息子と菓子折りをもって
訪問しました。(所有者は歩行困難なため同席無し)
その際に隣地の方が、所有者奥様と息子に向かってクレームを言い出したのです。
クレームの内容は数十年前にさかのぼり、急傾斜地崩壊危険区域に指定されている
部分の隣地所有の土地を県が維持管理する対策工事を実施してくれるということで、
隣接する所有者へ工事のための立ち入りを相談したところ息子さんに断られた経緯が
あったもの。そのため、その部分のみ対策工事が済んでおらず、隣地所有の土地が
土砂災害を常に心配する事態に陥っているという内容でした。ちょっと仲が悪いくらい
に考えておりましたが、思ったより根深い問題だということをつきつけられました。
いやー、日ごろの行いって全部自分に返ってくるんだなーと学んだ瞬間でもありました。
(昔から自分のことも含めて定期的におとずれます。つまり学んでいないんですね。)
みんな大変な思いをしてやっと売却することになったのに、自らまいた種で壁が立ち塞がる
ことに、「なんてことをしてくれてんだ息子よ」というこの時の感情も、息子の表情も忘れられません。
隣地の方からしたら、正当な理由がないただの嫌がらせですからね。
幸い、その場で直接当事者がお詫びすることができたので、同席いただいたことは正解でした。
が、立ち合いの了解をいただけず。(そりゃそうだ)ここからまた私の戦いが始まります。
【隣地所有者を説得する編】
隣地の方との面談時のことを、ずっと考えていました。
あのクレームは何を求めていたのか。
おそらく所有者家族が何度行っても断られますし、負担もあります。
この方への対応は私1人の方が良いと考えました。時間をかければ
この方にとっても悪い話ではないことをご理解いただけると思ったのです。
何度か訪問やお手紙の投函を重ねて関係性も出来てきました。時には私が
言葉を間違え(踏み込みすぎて)、怒らせてしまうなどの失敗も経て、
境界立ち会いに応じていただくことになりました。
現状のままでは土砂崩れが起こると隣地から物件へ土砂が流入してしまう
ことは隣地の方のリスクであり、どうにかしたいという気持ちはあるだろうという
ことと、過去のことがあったため簡単には了承したくなかったのだろうという気持ち
を話の中で何度もつっついていく内に、何とかご理解いただけたといった感じです。
立ち合い当日も、現地でなんだか色々と文句を言っていましたが無事終了となりました。
隣地から物件へ越境している樹木の伐採についても色々とありましたが、割愛します・・・。
書いていて思い出しすぎて疲れてきました・・・。
【引き渡し編】
そんなこんなで色々な条件をクリアし、引渡しを迎えるにあたって日程の調整が必要です。
契約から引渡しまで境界立ち合いの日程確保のため、3ヵ月程先の日程としました。
決済日は売主買主ともに条件が整った段階で、記載の日程までの間で決めましょうと。
ところが、所有者息子と連絡を取り合っていると、契約書に記載された引渡日以外は受け
付けないとのこと。いろいろあって記載した日の前日で以前から相談していたのですが、
なんだか問題が解決したとたんに私に対する態度が変わったように感じておりましたが、
この出来事が決定打でした。あとから聞いた話ですが、息子が窓口で私とやり取りをして
いたにもかかわらず、住民票と印鑑証明書の取得について、私からお母様に依頼をしたことに
不信感があったようです。私は息子が忙しいというので、許可を取って直接お母様に連絡した
のですが、受け取り方って人それぞれなので、気づかない内に人から信用を失っていたり
するのかもしれません。
そんなこんなで、相談から引渡しまで色々と大変だった取引のご紹介でした。
たまーに、失敗談や経験談を投稿していきたいと思います。
こういう話は不動産屋さんが読むと、「あー、あるある!」ってなりそうです。
これから売却や購入を検討される方、不動産業界に興味のある方は、不動産仲介って
こんな仕事なんだっていう1部切り取りみたいな感覚で読んでもらいたいと思っています。
